働き方改革
#02
コンクリートから考える
琵琶湖の環境問題と
土木業界の働き方
明石工業高等専門学校
都市システム工学科
准教授 工学博士
武田 字浦 なほさん
生コン業界において、環境への取り組みや女性のための労働環境改善をはじめとした働き方改革は喫緊の課題です。琵琶湖にてポーラスコンクリートを用いた水辺の植栽研究に取り組まれ、またコンクリート検査の省力化にも携わっておられる明石高専・武田字浦准教授を訪ねました。
聞き手 |
宇田 毅 副理事長 /
桑原 勇人 理事
ポーラスコンクリートへのヨシ植栽
琵琶湖のヨシ群復活に打ち込んだ学生時代
ポーラスコンクリートへのヨシ植栽
桑原
土木のなかでも特にコンクリートの分野で女性の研究者はまだまだ少ないと思うのですが、なぜ先生はこの道へ進もうと思われたのですか?
武田
家族でオランダを訪れたとき、街中に自転車道が整備され、花があふれる光景を見て、こんな街づくりをしてみたいと思ったんです。 立命館の理工学部に進み、コンクリートを扱う研究室を選択したのは、先輩から「このコンクリート、植物が生えるんやで ! 」とポーラスコンクリートを見せられたことがきっかけでした。大学院へ進むときにポーラスを用いた琵琶湖のヨシ植栽実験が始まり、研究に打ち込みました。
宇田
湖周道路ができて護岸工事が進み、減ってしまったヨシ群を復活させようという取り組みですね。
武田
マットにヨシを植えて木杭で湖底に打ち付ける方法もあるのですが、水深があると作業が大変なうえに波で流されてしまうんです。
桑原
その点、コンクリートなら簡単に固定できますね。
武田
しかも消波ブロックの役割も果たしてくれるんです。ただ、ヨシが自生するところまで成果を出せたものの、コンクリートの結束が強いために株が広がらず、また私が滋賀を離れたこともあって、琵琶湖での実用には至りませんでした。 明石に移ってからは竹繊維を混入したポーラスを研究テーマの一つにし、繊維が腐ることで植栽基盤に空洞をつくって自然崩壊させることにも取り組んでいます。
宇田
ヨシの植栽だけでなく、ポーラスは水を通すので湖周のサイクリングロードに活用できれば、滑りにくく安全な道づくりができるかもしれませんね。
女性の働きやすさが業界全体の改革に
ずっしりした重厚感のある試験器の数々。
軽量化を図り労力を軽減させることが、女性の生コン業界進出の切り口。
桑原
アンケートでは希望する業界に大手ゼネコンや公務員を挙げておられる方が多いですね。
武田
生コン業界は圧倒的に男性社会で、女性の働きやすさが大きな課題になっています。
桑原
重い機器を扱うのは女性にとって重労働です。
武田
解決にはいくつかのアプローチがあると思うのですが、一つ挙げられるのは試験器の重さの改善です。 JCI(公益財団法人日本コンクリート工学会)が立ち上げたコンクリート試験の省力化委員会の委員長を務めさせていただき、労力の軽減を図れないか検証を進めています。
宇田
歳を取っても長く働くことができ、現場での怪我も減れば、この業界で働きたいという若い人も増えるかもしれません。 JIS規格に関与することなのですぐにというわけにはいかないと思いますが、新しいルールができれば、企業の体制が変わるので業界全体が変わるきっかけになるはずです。
ずっしりした重厚感のある試験器の数々。
軽量化を図り労力を軽減させることが、女性の生コン業界進出の切り口。
業務のデジタル化など労働環境を整え、長期勤続や、女性・若者の参画が望まれる生コン業界。
現場を見れば、意識が変わる
業務のデジタル化など労働環境を整え、長期勤続や、女性・若者の参画が望まれる生コン業界。
業務のデジタル化など労働環境を整え、長期勤続や、女性・若者の参画が望まれる生コン業界。
宇田
生コン業界の未来を担う若者を増やしたいのですが、なかなか思うようにいきません。
武田
明石高専でも土木志望の学生は少ないのが実情です。そこで令和3年度に経済産業省の産業DX(digital transformation)人材育成事業に応募し、採択されました。生コンの現場でもAIなどを用いた自動化が進み、それに対応できるカリキュラムを設けることで学びたい人を増やせないかと考えています。
桑原
土木という響きがイメージが悪いのでしょうか…。暮らしの基盤を支える重要な仕事なのですが。
武田
震災後などは社会貢献に対する意識が高まり、インフラに関わるこの分野を希望する学生は増えるんです。水道をひねれば飲める水が出る。そんな当たり前のことが当たり前であるように、当たり前に仕事をしているのが土木であり、生コン業界です。学校の門をくぐってくれた子たちにはそれをしっかり教えることができるのですが、一般の人にどう伝えるかは大きな課題ですね。
宇田
滋賀県では初の県立高専が令和9年に開校予定です。建設・インフラを学ぶ土壌が整い、地元で活躍する人材が増えることを期待しています。
桑原
学生さんたちに土木を好きになってもらうために心掛けておられることはありますか?
武田
まず私が楽しむことでしょうか。そして現場を見せること。実際に見れば意識は変わりますから。
桑原
当組合にも見学施設を充実させている企業があります。やはり産学が手を結ぶことは大切ですね。貴重なご意見をいただきありがとうございました。
Concrete Labo